<2016.03.08追記>
3月8日、TPPの承認案と著作権の保護期間の延長(著作者の死後50年から70年に変更)や、著作権侵害の非親告罪化などを盛り込んだ関連法案を閣議決定しました。4月にも審議入りする予定で、今国会での承認と関連法案の成立を目指すとしています。
<追記ここまで>
昨日の夜に入ってきたニュースですが、大筋合意されたようです。
TPPとは、アジア太平洋周辺地域の12カ国で、それぞれの貿易をより活発に行えるようルールを整理する協定です。今朝の各テレビ曲のニュースでは、「関税が下がるので、外国産の牛肉が安くなる」「乳製品が安くなる」「日本の農家が大変」など色々な報道がされていました。
そして残念ながらあまり報道されていませんでしたが、音楽業界にも少なからず影響を与えることになりそうです。
音楽業界に影響を与えそうな「著作権の死後70年」と「侵害の非親告罪化」
音楽業界に大きく影響を与えそうな点は、この2点ではないでしょうか。
特に「著作権侵害の非親告罪化」は、具体的な内容こそこれから整理されるでしょうが、かなり大きな懸念があります。
いくつか報道されている内容もありますが、それぞれの内容を考察してまとめてみました。
- そこまで影響がない?「著作権は、作者の死後70年」
日本において、これまで音楽や文学などの著作権は「著作者の死後50年」となっていましたが、今回の協定でアメリカやオーストラリアに合わせて、「著作者の死後70年」となる見通しです。
正直、これは音楽活動をしている多くの人にとって、そこまで影響ないと思います。
残念ながらというか悲しいかなというか、死後50年(今後は70年)以上経っても使われ続ける音楽を、いったいどのくらいの人が作れるでしょうか。確かに自分の権利を守ってくれる期間が長くなることは、よほどのヒット曲を作った人やその家族にとっては非常に魅力的な話ですが、大部分の人にとってはそれほど影響がないでしょうね。
例えば、僕がバンドをやっていた10年程前に作った曲にも当然著作権はありますが、例えば僕が50年後に80歳で死んだとします。そうすると、著作権が切れるのはそこから70年後なので、10年前に作った曲の著作権が切れるのは120年後という計算になりますね。もはやその頃には、僕の曲なんて誰も知りませんね。
もちろん売れないバンドマンとプロの作曲家や既に著名な音楽家を一緒に考えてはいけませんが、あくまで大部分の音楽活動をしている人には、それほど大きな影響がないと想定しています。
むしろ影響があるのは、現在著作権が切れた音楽だけを使ってカフェのBGMなどに利用している人や商用の何かを作ったりしていた人でしょうね。それらを全て見直す必要がでてきそうです。
- どこまで適応か不安でいっぱい!「著作権侵害の非親告罪化」
一方、こちらはかなり深刻な内容かもしれません。
そもそも「非親告罪」という内容を簡単に説明しておくと、これまで日本での著作権侵害は「親告罪」でした。だいぶ大雑把に説明すると、刑事罰として起訴するには著作者(作成者)が「告訴=親告」する必要がありました。それが、著作者の告訴がなくても起訴できる「非親告罪」になる見通しです。
もちろん、海賊版DVDの取り締まりや違法な制作に対する取り締まりにはスピード感を持って対処できるなどメリットもあるのですが、極端な話、著作者以外のだれでもが告訴できるという風にもとれます。(実際にどうなるかは、これから詳細が決まるようですが)
この「著作権侵害の非親告罪化」を巡っては、同人誌などのいわゆる二次創作などの創作活動を取り締まる可能性があると報道されていましたが、僕は音楽の制作にこそかなり影響があるのではと考えています。
そもそも定義が曖昧な音楽のパクリ問題
大前提として常に感じていることですが、そもそも音楽に関しては王道のコード理論であったり、耳に残りやすい響きであったりと、所謂「お決まりのパターン」というものが少なからず存在するので、 「あの曲と、この曲が似ている!」「このメロディーは○○と同じだ!」なんて騒動がよく出てきます。
中には「明らかにパクリだろ」って思うものもありますが、よくある話ですよね。
これまではそういったものに対し、原曲の著作者が「著作権侵害として告訴」する必要があったのですが、今回の「非親告罪」では、極端な話ですが誰でも告訴できるようになるということです。
最近もどこぞでありましたが、とにかく「パクリだ」という流れが一度出来上がってしまえば、誰か告訴する人が出てきてもおかしくありません。もちろん第三者が告訴してもそんなにメリットはないと思うのですが、悪意を持って、作者の評判を下げてやろうと告訴する可能性だってゼロではないですからね。
あ、当然ですが、パクリはだめですよ。
決してパクリを擁護しているわけではないですが、もともと定義が曖昧というか王道の流れみたいなのが存在する音楽において「雰囲気が似ている」「コード進行が同じ」とかで平気で告訴できるようになってしまうと、作曲家としてはかなり辛くなってくるのではないでしょうか?
実際にそんなことあるの?あるんです、アメリカでは!
「いやいや、さすがにそんなことないでしょ」と思った方、それが実際にアメリカではあるんです。
今年、アメリカの有名なシンガーソングライター「ロビン・シック」のヒット曲「ブラード・ラインズ」(作曲はファレル・ウィリアムス)が、1984年に他界した著名なR&Bミュージシャンである「マーヴィン・ゲイ」の楽曲を「黒い夜」盗作したとして、ゲイの遺族が告訴しました。その結果訴えが認めら、ロビン側に約740万ドルの支払いを命じられたという話が話題になりました。
そして驚くことに、この告訴は「雰囲気が似ている」「曲のニュアンスを引用している」という理由です。
僕はこの問題が話題になった時に両方を聴きましたが「そんなに似ているかなぁ」という感想でした。これがまかり通るなら、「コード進行が同じ」「ドラムのリズムパターンが同じ」「ベースラインが似ている」・・もうなんでもいけるかもしれませんね。
実際にこの裁判は、ロビン側が控訴してまだ続いている(一部では和解も断られたと報道)ようですが、これができるなら本当に悪意をもって、製作者を第三者が告訴できるようになってしまうかもしれません。(今回の訴訟は遺族が起こしていますが)
この問題については、以下のサイトで流れがまとめられていたので参考にしてください。
参考:「ブラード・ラインズ」著作権侵害訴訟、ロビン・シック&ファレル側が敗訴 「恐ろしい前例になる」
詳細が気になる「非親告罪の適用の例外」
とまぁ、極端な例として想像を膨らませてきましたが、本当に何でもありになるのでしょうか?
安心と信頼のNHKさんの報道によると「著作物の収益に大きな影響を与えない場合は非親告罪の適用の例外とするよう調整している」とのコメントもありました。
うーん、要はパクって何か作ったところで曲がそんなに売れなかったり、原作の評判(収益)を落とさなかったりすれば非親告罪の対象にならないのでしょうか?でもそれって、誰が判断するんでしょうね?社会的に見てってやつでしょうか。
とにかく、この例外範囲がどういった適用になるのかにもよりますが、何でもかんでも「パクリだ!」として著作 権侵害されてしまうと、作曲の幅がどんどん狭くなってしまいそうです。
そうなると、今後は新しい曲が作れなくなってしまうなんて可能性すら感じます。
まとめると
なんか、久しぶりに長文書いてしまいました。それも極端な例を取り上げすぎた感がありますが、そのくらい僕は気になっています。
あくまで著作者の権利を守る為に、よりスピードをもって解決できるようにする為に「著作権侵害の非親告罪化」を導入するのだろうということは頭では分かっているのですが、正直、これまで書いたような懸念が払しょくしきれません。
今後いつから適用されるのか、実際はどのような内容になるのかなど詳細はこれからですが、今後も注目していきたい話題です。